人間失格より

無駄な御祈りなんか止せったら
涙を誘うものなんか かなぐりすてろ
まァ一杯いこう 好いことばかり思い出して
よけいな心づかいなんか忘れっちまいな

 

不安や恐怖もて人を脅やかす奴輩は
自らの作りし大それた罪に怯え
死にしものの復讐に備えんと
自らの頭にたえず計いを為す

 

よべ 酒充ちて我ハートは喜びに充ち
けさ さめて只に荒涼
いぶかし 一夜さの中
様変りたる此の気分よ

 

祟りなんて思うこと止めてくれ
遠くから響く太鼓のように
何がなしそいつは不安だ
屁ひったこと迄一々罪に勘定されたら助からんわい

 

正義は人生の指針たりとや?
さらば血に塗られたる戦場に
暗殺者の切尖に
何の正義か宿れるや?

 

いずこに指導原理ありや?
いかなる叡智の光ありや?
美わしくも怖しきは浮世なれ
かよわき人の子は背負切れぬ荷をば負わされ

 

どうにもできない情慾の種子を植えつけられた許りに
善だ悪だ罪だ罰だと呪わるるばかり
どうにもできない只まごつくばかり
抑え摧く力も意志も授けられぬ許りに

 

どこをどう彷徨まわってたんだい
ナニ批判 検討 再認識?
ヘッ 空しき夢を ありもしない幻を
エヘッ 酒を忘れたんで みんな虚仮の思案さ

 

どうだ 此の涯もない大空を御覧よ
此の中にポッチリ浮んだ点じゃい
此の地球が何んで自転するのか分るもんか
自転 公転 反転も勝手ですわい

 

至る処に 至高の力を感じ
あらゆる国にあらゆる民族に
同一の人間性を発見する
我は異端者なりとかや

 

みんな聖経をよみ違えてんのよ
でなきゃ常識も智慧もないのよ
生身の喜びを禁じたり 酒を止めたり
いいわ ムスタッファ わたしそんなの 大嫌い